アーネストが部屋から去ると、ようやく
待ち望んだ静寂が訪れる。
明かりを消せば、窓から月明かりが差し込む。
この空間が、自身にとって一番落ち着く安らぎの場所である。


「あんな小娘に絆されるとはな……」


始めは忌々しいあの女の娘という認識で、精々利用させてもらうつもりでいた。
だが実際に関わってみれば、利用するどころかあの娘に振り回されている。
挙げ句の果てには協力するなどと、思ってもいない事を言ってしまう始末。
やはりあの汚れを知らぬ、全てを見透かすような青い瞳がそうさせるのか。
だが彼女は違う。
彼ではない。
例え彼女が彼と同じでも、心から信じられる相手ではないのだ。

だが――

『私はまだあなたの事、何も知らないもの』

数日前に言われた言葉。
それは遠い日々の中、彼に言われた言葉と同じだった。
彼女の仕草、言動の端々にさえ、彼を思い出させる。
やはり彼女は彼に似ている。



その事ばかりが頭の中を支配し、これ以上考えたくないと、窓辺に立つ。
見れば空高く昇った満月が輝いていた。
まるで自分を見守りながら、照らしているように。


「……君が選ぶ道は、どんなものだろうな」


安寧とした道かそれとも――。
どちらにしろ、今はまだ分からない。
だがどうなろうが、自分の願いは変わらない。



「さて……お手並み拝見といこうか。可愛いリーデルさん」


彼の言葉が持つ真実が
明らかになるのはまだ先の話。

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