しばらく海の顔に視線を落としながらぼんやりとしていたけれど、午前中貴和子が私の机に残していた付箋の存在を思い出して、はっとした。

「あ、そっか。貴和子、弁護士の男の子を気に入ったって書いてた。で、直接海にお願いしにきたんだ……。あれ?でも、貴和子はまだ何も海に言ってないのに、よく弁護士さんを気に入ったってわかったね」

驚いて海にそう言うと、海は大きく笑って貴和子をちらりと見た

「露骨なんだよこのおねえさん。あいつ……弘樹の側から離れないんだから誰でもわかるさ。結局最後まで他の男には目もくれず、弘樹狙いでコンパ終了だったもんな」

「弘樹狙い……」

最後は呆れたような声で教えてくれた海にどう言っていいのかわからないまま傍らの貴和子を見ると、全く動じる様子もなく笑顔で立つ彼女。

「当たり前じゃない。ようやく見つけた理想の男なんだから他の男になんてかまってる暇はないのよ。私は一人の男がいればいいんだから」

「貴和子……」

社内でも美人で有名な貴和子に想いを寄せる男性は少なくない。

受付嬢としていつも笑顔を絶やさない彼女に癒されている人も男女問わず多いし、もちろん受付を訪ねてくる社外の取引先の人の中にも彼女のファンは多いと聞く。

それでも、どんな誘いにも応じず、やんわりとかわしてきた彼女。

本気で好きになる人としか付き合えないと、その意思を固く貫いてきたのに、今は必死な顔で海にどうにかして欲しいと訴えているように見えて。

「本気……?」

思わず聞いた私に

「もちろん」

即答。

あ、やっぱり。