「あ、司……も、今からランチ?」

硬い表情に戸惑いながら、普段通りの笑顔を作ってみた。

少し声が小さかったけれど、とりあえず司には届いたようで。

「いや、俺らは終わって会社に戻るところ」

「あ、そうなんだ。私は、ちょっと出遅れて……」

へへっと軽い笑いを入れても、司の表情に変化はなく、どうしてこんなに機嫌が悪いのか全く分からない。

もしかして、一緒に食事に出る約束でもしてたっけ、と考えても、そんな約束した覚えもないし、午前中新人研修で会った時は普通に笑ってたのに。

この数時間で司に何があったんだろう。

ほんの少し首を傾げていると、司の背後に長い髪が見えた。

明るい茶色で、背中の真ん中あたりまでのつやつやストレート。

手入れの行き届いている見慣れたその髪。

「え?貴和子?」

驚いて呟くと、煌めく髪を揺らして振り返った美人。

髪だけではなく、その顔も周囲の目をひく圧巻の受付嬢である同期の貴和子は、
司の背中から顔を出して、にっこりと笑った。

「さっき、偶然そこの定食屋さんで司たちと会って、一緒に会社に戻るところなのよ。
ちょうど真珠と海くんが見えたから、ちょと声かけようって……司が無理矢理私を巻き添えにしてここに連れてきたの」