「ほら、食べたいだろ?ん?」

おいしそうなにおいが、空腹感に満ちた私の意識を全て目の前のミートソースへと集中させる。

本当においしそうな匂いにつられて、思わずぱくっと食べてしまいそうになるけど。

「い、いいよ。もう大人だもん、我慢でき……」

「できないだろ?」

「えっと……」

「ほら、我慢なんて真珠らしくない」

ほらほら、と私の口元に寄せられたミートソースに思わず。

「そんなに言うなら」

とりあえず呟きながら。一口でぱくりと食べてしまった。

「んっおいしいっ。やっぱりミートソースが一番だね」

もぐもぐとしながらようやくそれだけを口にした。

「本当、この味、うまいな。しょっちゅうこの店に来てしまいそうだよ」

幸せそうな顔をしてパスタをほおばる海を見ながら、私も幸せな気持ちになる。

食べ物の好みが良く似ている私達は、食事を共にするだけでその場の空気が穏やかなものになるし、居心地がいい。

昔から、この時間が大好きで。

だからこうして海の誘いには必ずと言っていいほど応じる私。

「真珠のランチも味見させろよ」

「ふふっ。わかってるって」

くすくす笑いながら、大きな口を開けて食べる海を見ていると。

「真珠?」

不意に背後から声をかけられた。

聞き覚えのあるその声に振り返ると。

「真珠が社食じゃないなんて珍しいな」

どこか憮然とした、低い声。

眉を寄せてあからさまに機嫌が悪い表情をしている司がいた。