自分の部署の説明が終われば、お役御免、各自業務に戻っていいことになっている。

私も例にもれず、資料を手にしたまま会議室を出ようとした。

ちょうど入口にいた司に気づきながらも、視線を落としたままでその横を通り過ぎようとしたけれど、司は私の腕を何気なく掴んだ。

はっとして立ち止まった私は、司の顔を見上げた。

司に掴まれている右手に意識が向いてしまって、どんな顔をしていいのかわからない私とは逆に、どこか余裕の表情の司。

「今年は大丈夫だったのか?」

囁くような声が耳元に響いた。

「え?」

「今年は、新人にお説教しなかったのか?」

どこか面白がっている声は、私をからかっているとわかる。

「去年のように、態度の悪い新人達にキレて、怖くて厳しい先輩、なんて思われなかったか?」

「だ、誰が怖くて厳しい先輩、なのよ」

思わず大きな声を出して反論してしまった。

それまで静かだった会議室に、私の低い声が響いて慌ててしまう。

「ちょっと、変な事言わないでよ。ちゃんと穏やかにすすめて、ようやく終わったんだからね」

「ならいいけど。あとで都築に確認しておこう」

にんまりと笑った司の言葉の意味がつかめなくて、彼の瞳に問いかけてみるけれど、肩を揺らして笑ってるだけで、理解不能だ。