そして、司は社長に可愛がられているんだと知った。
社長の自宅の新築に関わるうちに社長とも奥様とも親しくなって、今では自宅に呼ばれて食事をいただく事もあるらしい。
最初は相模さんや他の社員の人も一緒だったけれど、今では司一人でお邪魔する事も増えて、『桃香さん』と社長の奥様を呼べるほどの距離での付き合いになっている。
桃香さんが暮らしやすい新居の建築に携わっていく中で培った関係は、司がこの先設計という仕事を何の為に役立てていくのかをじっくりと考えるきっかけとなった。
せっかくの知識を有意義に使いたいと、そして誰かの役に立つように生かしていこうと思ったと。
ほんの少しの照れくささを隠そうとしながら教えてくれた。
そんな関係を築いているのなら、仲人を引き受けてくれるという社長と奥様の気持ちも理解できる。
社長と部下という繋がりだけでは説明できない濃い関係性。
「せっかくおっしゃって下さってるんだから、仲人をお願いしようよ。
社長が言うようにアマザンホテルなら車椅子の人にも優しい設計だから、奥様も大変な思いをしなくていいだろうし」
司の話を聞いた後、私の気持ちを告げると、司は戸惑いながらもどこかほっとしたように笑顔になった。
私がどう受け止めるのかが不安で、仲人の事やアマザンホテルでの結婚式の事を社長にOKできなかったに違いない。
私を気遣ってくれるその気持ちは嬉しいし、司の優しさに有難さも感じるけれど。
「司だって、仲人をしたいっていう社長の気持ちを受け止めたかったんでしょ?
私の気持ちを考えてくれるのは嬉しいけど、自分のしたい事をまず進めてくれていいんだからね。遠慮しないで」
そう。
司が私を大切にしてくれる中で、自分の仕事や立場を二の次にして私を優先する事は、私自身が躊躇してしまうし司に申し訳なく思う。
だから、司がしたい事をまず優先して欲しい。
「司にとっていいと思う事をしてくれていいよ。私はそれについていくつもりだからね」
司の顔をそっと窺いながら、呟いた。