「社長の奥さんの桃香さん。写真で見た通り、足に障害があって歩けないんだ。
高校生の頃まではどうにか歩いていたらしいけど、大人になってからはずっと車椅子生活で、大学にも車椅子に乗りながら通っていたらしい」
「大学も……?大変だっただろうね」
「ああ。社長が車に乗せて送り迎えをしていたらしいし、生活全般に気を配っていたらしい」
「え?社長が?そんな昔からの付き合いなの?」
思わず驚いた声が出た。
「そうなんだ。いわゆる幼馴染らしい。小学校が一緒でそれ以来の付き合い。まあ、恋人同士として付き合いだしたのは高校生の時らしいけどな」
「幼馴染……。すごい。純愛だ」
「だろ?社長も桃香さんもお互いが最初で最後の恋人で、結婚してから長いのにありえないくらいにお互いが大好きで。
二人と一緒にいると眩暈がするほどに熱いんだよなあ」
くすくすと笑いながら。
思い出したように目を細めた司は、私の体をぐっと引き寄せた。
リビングのカーペットの上に投げ出された足の間に私を閉じ込めて、後ろから抱きしめられた途端、私の鼓動は一気に活動を開始。
とくとくと音がして、かなりのスピード。
首筋にかかる司の吐息が更にそのスピードを上げる。
「社長と桃香さんみたいになりたいんだよな、俺。
理想なんだよ、あの二人のバカップルぶりが、羨ましくて仕方ない」
司は、はあ、と小さく息を吐くと、私のお腹の前で組まれた手に更に力を入れて。
「真珠のこと、本当に好きだから。羨ましくてたまんなかった。
だから、桃香さんが生活しやすいような家を建てるお手伝いをしたんだよ。
相模さんが社長の新居の設計をしていて、俺も勉強しろって声かけられて。
で……何の勉強かと思っていたら車椅子に優しい家の設計だった」
「あ……桃香さんの為の設計だ」
「そう。それまでも社長が設計した家で暮らしていたんだけど、建て替える事になったんだ。で、相模さんが設計する事になって。
ちょうどアマザンホテルの設計に絡んでた関係で俺にも声がかかったんだ」
その頃を思い出すように、司は話を続けた。
司に抱きしめられる心地よさに浸りながら、私は静かに耳を傾けた。