そしてその夜、司から社長との繋がりを教えてもらった。

社長と言葉を交わしている司を見ていれば、その距離の近さはある程度わかったけれど、そのきっかけがなんなのかが知りたかった。

そんな私の気持ちに、『大した事はないんだけど』と前置きをしながら苦笑する司。

「配属されて間がない頃だったんだけど、その頃って、相模さんの方針でいろんな現場に放り出されては一週間くらい職人さんの手伝いをしたり、部材の手配をしたり。外で動き回ってたんだ」

「あ、何となく覚えてる。スタッフ部門の配属よりも設計部門の配属は研修が長いから遅かったよね。配属されてすぐなのに、なかなか本社にいないし、聞けばいつも現場に飛んでたよね……ご愁傷様って思ってたな」

振り返るように記憶をたどる。

入社してから配属までの研修は、やはりわが社の本業を担っていく設計担当者はかなり長かった。

研修中からもあらゆる現場で実地研修を重ねては即戦力となるよう教育されていた。

相模さんというわが社のカリスマが現場に出向いて研修の指揮をとることも多くて、研修中とはいえど、相模さんの仕事ぶりを目の前で見る事ができるその期間は、新入社員にとっては夢のような時間でもある。

相模さんが書いた生の図面を目にする事ができ、その人柄に触れながら仕事を覚えていく。

優秀な人から受ける刺激によって更に仕事への覚悟と夢を体に生じさせて、現場での空気を取り込む、その研修期間中の成長ぶりは毎年すごいものがある。

「俺、あの研修期間中で人間が変わったかもしれないな。
相模さんの人間性とか、仕事への思いとか、正直頭をがつんとやられた感じで泣きそうだった」

「確かに、相模さんて仕事ぶりだけで評価されてるわけじゃないからね」

設計デザイン大賞という、名誉ある賞を幾度か受賞した後も現場に出て精力的に仕事に励むその姿勢と、後輩達を育てていこうとする熱意は社内外を問わず誰もが認めるところ。

自分のポジションをしっかりと認識しつつも、おごらないその人間性も、彼を
『カリスマ』と世間が呼ぶ大きな理由。

建築や設計の詳しい事を知らない私ですら入社前からその名を知っていた相模さんを交えての、社長と司との繋がりがどういうものなのか、私はほんの少し緊張しながら聞いていた。