会社の顔である相模さんと社長が親しい間柄だというのは以前から知っていた。
社内では周知の事実であり、いずれはわが社の社長にまで上り詰めるであろうと言われている相模さんだから、それは自然な事なんだろうけれど。
その関係の中に司の存在が放り込まれていると知って、驚きは隠せない。
確かに相模さんからの期待を受けて、それに応えるべく実績を積み重ねている司の才能は明らかなものであり本人には大きなプレッシャーもあるはず。
司が仕事の愚痴をこぼしたという記憶がない私には、そんなプレッシャーを司が持っているのかもしれないと感じた事もなかったせいか、社内での司のポジションを知らされた途端に重い感情に包まれた。
相模さんの後継者と言われている司の社内でのポジションが、思った以上に重要な位置にあると感じて、司を遠く感じたりもする。
司が好きで、側にいたくて、それでも司には長いつきあいである恋人がいたせいか、これまでその事実にばかり、私の気持ちは傾いていた。
社内での司の評判を耳にして、仕事ができるオトコだとわかっていたはずなのに、美香さんという恋人の存在の方が私には大きな壁だったせいで、その評判は壁の向こうで霞んでしまっていた。
だから、その壁を乗り越えて私を愛していると言ってくれた司の側にいられるようになった今、司の本来の姿が見えてきた。
「社長も相模さんも、司をかわいがってるんだね」
ぽつりとこぼれた私の声は、司に届くか届かないかの小さなものだった。
「かわいがってるっていうか、しごかれてるんだよな。
相模さんの下で仕事してる社員はみんな同じだけど、高いレベルを求められすぎて眩暈起こしそうになるよ」
冗談じみた軽い声でそう呟くけれど、司の表情には決して不満を含む感情は見えなくて、逆に楽しんでいるようにも見える。