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その日、社長との話を終えた私達は、それぞれに仕事を残していたせいでそのまま自分の部署へと戻った。

社長と司との関係が気になったけれど、司も私も仕事が忙しくてそれどころじゃなかった。

そして、その晩遅くに司が私の部屋に来てくれた。

二人とも仕事で疲れているけれど、今日の社長との会話の詳しい所を知りたくて眠気すらなく、司が来た時には今にも色々と聞き出そうとする思いを抑える事で精いっぱいだった。

「で、何から聞きたい?」

とりあえずお風呂を済ませた司に、用意していた夕食の焼うどんを出した途端、司は笑いを堪えるような声で切り出した。

「早く聞きたいって顔に書いてあるのに、よく我慢してるな」

あちっと言いながら、大好物の焼うどんをほおばる司を見ていると幸せな気持ちになる。

結婚したら、毎日こうして一緒に過ごせるのかなと思うと心は軽やかになるけれど、私の中には、それを求めていいのかどうか、悩む感情も確かにある。

けれど今は、そんな感情は表に出さないまま司の言葉を待っている。

「我慢、し過ぎて叫びだしそうだけどね。だって相手は社長だもん」

「ま、そうだな。俺も社長と現場で初めて会った時は緊張して吐くかと思ったな」

「現場……?ってさっき言ってたアマザンホテルの現場?」

「いや、それより前に請け負った社宅の現場。50区画のうち、2区画を社長が設計したんだ。相模さんが社長を引っ張り出したんだ。
俺もそれに絡んでたから、それ以来のお付き合い」

「お付き合いって、社長が自ら図面ひいたの?」

「ああ、久しぶりで武者震いがするとか言ってたけど、さすがな設計で、お施主様も納得。相模さんはそれがわかってたみたいでにやにや笑ってたな」

司は柔らかな表情で思い出し笑いをしていた。