「驚くのも無理ないな。社長になってから、いや、役員に就いてからは現場から離れていたからな。それまで足場に上っていた俺の仕事とは全く違って大変だったな。
それでも、会社をうまく回していくためには管理の仕事も大切だから、まあなんとか我慢してたんだけど」

そこまで話して、社長は胸元の内ポケットから何かを取り出した。

手にしたものは、きっと写真。

社長は、それをちらりと見ながら優しく笑うと、私にそっと差し出した。

「え。いいんですか?」

「ああ、あまりにも綺麗で声を失うぞ」

とろけるような、甘い表情と声の社長から手渡されたものは、やはり写真だった。

きっと、いつも手元に持っているんだろうと容易く想像できるほどに小さな皺の波が漂っている写真には、社長の言葉どおりのかなりきれいな女性が写っていた。

淡いグリーンのブラウスが良く似合う女性は、50代前半くらいの見た目で、顎のラインで揃えられた髪は艶やかに光っている。

「うわ、大きな目。お人形さんみたいですね」

私は思わずそう呟いた。

色白に赤い唇。

本当に人形のように綺麗だ。

「だろ?実物の桃香はもっと綺麗だぞ。……本当、俺にはもったいないくらいにいい女なんだ」

両手を膝の上で組んで、体を私たちに近づけた社長は本当にそう思っているようで、何かを思ってほっと息を吐いた。

社長とは言ってもまだ50代。

どこか憂いも感じるその見た目からは艶やかな色気も漂っていて人気も高い。

この写真に写っている奥様と並ぶと一層映えそうだ。

「で、その写真に写っているとおり、桃香は足が不自由なんだ。
だから、一人では生活しづらい面もあって、それを改善できる街や家を作ってやりたくて俺は設計の勉強をしたんだ」

社長は、写真を見た途端に気になった事をすらっと簡単に言ってくれた。

そう、お人形さんのように綺麗な顔で幸せそうに笑っている桃香さんは、車椅子に座っていた。