堂々とした顔つきで社長を見返す司と、照れて俯きがちな私。
そんな二人を交互に見ながら、社長は意地悪な笑みを浮かべた。
「どこでもいいなら、アマザンでもいいだろ?宗崎くん達が単なる会社員でも、空きがあれば予約OKなんだから小さい事は気にするな」
「小さい事じゃないんですよ、俺たちにとっては重要な事です。
アマザンなんて高級ホテル、正直ぴんとこないですし、どうしても結婚式をそこでしたいっていう希望もないんで……」
「ぴんとこなくても、あのホテルはいいぞ。従業員の教育も行き届いているし料理もおいしいし。何より設備がいい」
「はあ……」
私たちにアマザンホテルをすすめる社長の語気に圧倒された司と私は顔を見合わせて首を傾げた。
やんわりと遠慮している私達の気持ちを無視して話を進めている社長に違和感も覚える。
どうしてアマザンをここまで推してくるのかわからない。
確かに、超が付くほどの高級ホテルであり、この国を代表するホテルではあるけれど、社長が気に入る大きな要因は何なのかがはっきりとわからない。
「そんなにアマザンホテルっていいんですか?」
司も私と同じ気持ちを抱いているのか、微妙に不安そうな顔で社長に尋ねた。
相手は社長、不躾な質問には慎重になるけれど、社長の言葉の意図が知りたい。
社長の機嫌を損ねないよう、司が気にしているとわかる。
社長は、司の言葉ににやりと反応した。
「ああ、アマザンはそれほどいいホテルなんだよ」
司と私が座っているソファの向かい側に腰かけていた社長は、その体を前に乗り出すように近づいてきたかと思うと。
大きな笑顔で。
「最近、宴会場の何部屋かを改装したんだけどな、俺がそのうちの二部屋を担当して内装を決めたんだ。かなりの自信作だから、きっと君たちも気に入るぞ」
「は?社長が担当……ですか?」
司から思わず出た声からは、驚き以外感じられない。
「ああ、久しぶりに図面を引いたり職人たちと打ち合わせをしたり、楽しかったし燃えたな」
「社長が……」
戸惑う司の声に小さく笑った社長は。
「相模が俺を現場に放り込んだんだよ。そろそろ引退って考えてた俺に喝を入れるためにな」
思い出したように肩をすくめた。