「ああ、それもそうだな。一生に一度の事だから後悔しないようにしなきゃな。
俺の結婚式は、桃香が全て決めたから、俺は当日遅刻しないように現地に行くだけだった。
結婚式は新婦のものだから、桃香が満足できるように決めてくれればそれで俺は満足でな。今もそんな感じだ。桃香が俺たち家族の全てを決めてうまく回してくれてる」

桃香さんというのは社長の奥さんらしいと、言葉から想像できた。

そして、桃香さんを溺愛して大切にしているというのはその表情からすぐにわかる。

笑うと目じりに浮かぶ皺には奥様への深い愛情が見えて、その姿は大企業の社長というよりは品のいいおじ様。

大学生の息子さんが二人いると聞いているけれど、家では家族を優しく見守る素敵なお父さんだとあっさり予想できる姿に、私の気持ちは緩む。

緊張して体は強張ったままだけど、社長の愛情に満ちた様子にほっと息をついた。

司は、相変わらず苦笑したままで。

「社長は奥様命ですからね。俺だって真珠命で結婚決めたんで、負けませんけど。ただ、今の俺たちにはアマザンホテルは無理ですね。
金銭的にはどうにかなっても、格式が高すぎて申し訳ない」

その言葉に、私も小さく頷いた。

政財界のVIPだけにとどまらず、海外からの来賓もこぞって利用するアマザンで結婚式なんて、考える事すらしなかった。

私と司のような一般企業の会社員が利用するなんて滅多にないのに。

「真珠と結婚できるなら、俺はどこでもいいんです。アマザンのような高級ホテルじゃなくても二人で笑いあえればそれで」

ゆっくりとしたその口調は事務的なあっさりとしたものだったけれど、中味は甘過ぎるほどに甘くて。

一瞬考えた後、顔が熱くなるのをどうしようもできなかった。

私との結婚を熱望してやまない気持ちが溢れていて、照れた私は思わず俯いた。