しばらくは何も言えずにいた。

司の気持ちは私には重すぎて深い。

私を愛する事だけが司のこれからの人生だって宣言されて、それにどう応えればいいんだろうかと感情は波打つ。

確かに司が私を大切にしてくれて、愛してくれていると実感する機会は多くて、夢見心地で過ごす時間も増えた。

これまでの切なくて苦しい時間を取り戻すかのように、感情を溢れさせて素直にその気持ちを伝える司はいつも笑顔に満ちていて、本当に輝いている。

その輝きは私と寄り添う時間が作っていると、うぬぼれではなくそう感じて。

司と恋人になった喜びが何倍にも増していく。

それは、私も同じ。

司が側にいてくれることで、愛してくれることで、自分も輝いている気がする。

けれど。

司には司自身の人生があるのに、私を愛する事だけが、そして私を側に置く事だけが司の人生の全てだなんて言い切られて、少し怖くもある。

「司の未来は司のものなのに」

司を突き放すつもりではない私の気持ちが、誤解なく伝わるようにと思いながら呟いた。

「俺、何やってもうまくできてしまう器用貧乏だったんだよな」

「は……?あ、うん」

司は、この場の流れにそぐわない話を始めた。

今どうしてそんな話をするのかと、思わず背中越しの司を振り返ると、どこか苦しげな瞳が空を見つめていた。

開きかけた口を閉じて、とりあえず司の言葉を待った。

「俺の実家は料亭だろ?長男の俺が継ぐんだろうなあって子供の頃からある程度の覚悟はしてたんだ。別に料亭の仕事が嫌だとは思わなかったし、敷かれたレールに乗る事にも抵抗なかったから、自然に受け入れていたんだ」

小さな頃を思い返すように、司は言葉を続けた。