「司は、私が結婚をやめるって言い出すとか心配してるの?」

「え?そんなの当たり前だろ」

「はあっ?」

思いがけない司の言葉に、驚くやら呆れるやら。

お互いの両親にも結婚への挨拶を済ませて賛成の言葉ももらっているのにどうして今更心配なんてするのかわからない。

私が司の事をずっと好きで好きで苦しんでいたって知っているはずなのに、今更私の気持ちを疑うなんて信じられない。

「司の事、ずっと想ってたって言ったし、結婚するってちゃんと決めたのに。
どうして心配なのよ」

思わず荒くなる口調で司につっかかってしまった。

司はキッチンの冷蔵庫から缶ビールを取り出しながら肩を竦めて

「だって、真珠はまだ確実に俺のもんじゃないから、たとえ小さな不安でも取り除けるもんは取り除くし、逃げられないように外堀は埋めるって決めてる」

だからどうした、とでもいうようにあっさりと言い切る司は、ビールを一つ私に手渡すと。

呆然としている私の唇に軽く唇を落としてくすりと笑った。

既にシャワーを浴びている司からは、シトラスの香りが漂っていて、すっきりとした表情。

仕事から帰ってきたばかりの疲れ果てている私とは逆にかなりリラックスしている。

「駅の近くの店で弁当買ってきてるから、早くシャワー浴びてくれば?
俺、真珠と一緒に食べようと思って待ってたから腹へってるんだ」

「……司、不安って何?外堀って何?」

まだ濡れている髪をタオルで軽くふきながらビールを飲んでいる司の前に立つと、司は一瞬びくりと表情を曇らせたけれど、すぐにその表情は緩んだものに変わった。

「そうやって真珠が俺の事を怒るってよっぽど俺の事が好きって事だよな。
思ったより、気分いいな」

「……司っ」

「まあまあ、落ち着いて。俺は真珠を側に置いておくためにこの先の時間全てを使うって決めてるから。真珠はそんな俺に慣れるしかないな」

司は小さく首を傾げると、あ、見たいテレビがあった、と慌ててリビングへ。

キッチンに残された私はその背中を見つめながら、何度も司の言葉を反芻していた。

私を側に置いておくためにこの先の時間全てを使う……って?

言ったよね、司、そう言ったよね。

幻聴ではなかったかと司の言葉をリピートしながら鼓動はとくとくと跳ねて跳ねて。

そして、気づけば体中が熱かった。