その週、私は仕事に追われて毎日残業が続いていた。
株主総会が終わるまではずっとそんな毎日だろう。
毎年の事で、慣れているとはいえ体はつらい。
司も現場への出張で飛び回っているようで、社内で顔を合わせる事はほとんどなかった。
設計担当だとはいえ、現場に出向いてその場の空気感やお施主様の生活を身近に知らなければだめだという相模さんの教えに感化されてしまっている司は現場に出かける事が多い。
一週間全てを現場から現場へと渡り歩く事もある。
本社にいない時間も多いせいで、同期のみんなで飲みに行く時にも、その中に司の姿がある事は少ない。
仕事には時間も体力もかけているといっても過言ではないその姿勢が、司の実績を高めているし、『相模恭汰の後継者』と周囲に言わしめるゆえんなのかもしれない。
同期ながらあっぱれだなと、何度も感心したし、自分も負けないように仕事を頑張ろうと励みにもしている。
司の才能は素直に素晴らしくて、その才能を一歩引いた所から支えている上層部の動きもある。
今は業績も好調で、相模さんをはじめ世間にも名前が知られた建築士の社員がわが社の顔となっているけれど、次世代のエースとして期待されている司を鍛えていこうという話も総務部にいると雑談として入ってくる。
いずれは設計デザイン大賞も獲るだろうと言われ、わが社の取締役にもなると期待されている司の結婚が、社内に知れ渡れば大変な事になるとわかっていたから慎重になっていたのに。
「現場で相模さんと社長に会ったから、披露宴に出席してくれるように言っておいた。社長が仲人してやるって言ってたけど、どうする?」
週末、疲れた体で自宅に戻った私を待っていた司の開口一番の言葉がこれ。
「どうするって言われて断れる相手じゃないでしょ?お願いするしかないじゃない」
「だな。社長が絡んでくれたからには真珠ももう逃げられないな」
「は?」
「……、ま、そういう事だ。真珠は俺と結婚するしかないって事だな」
にやりと笑って大きく頷いた司を目の前にして。
仕事によって抱えていた疲れが更に倍増した気がした。