その後、異動と結婚に関する書類を大村さんから手渡された私は、ある程度わかってはいたけれどその面倒くささにげんなりとしながら総務部へ戻った。

大村さんが司と高校時代からの付き合いだと聞いて、ほんの少し沈んでしまった気持ちに自分でも驚いてしまった。

司にだって高校時代はあるし、勉強だってクラブだって一生懸命こなしてきた過去を否定するなんてしないけれど、私が知らなかった司の世界を垣間見て、予想以上に響くものがあった。

私と海の付き合いが高校時代から始まっている事に敏感に反応していた司本人にも、輝く高校時代の思い出が今でもあるに違いないし、その頃の経験が今の司を形成しているんだろうとわかる。

高校時代の恋愛は、淡く優しい思い出になる、と言っていたし、そして『やっかいなもの』だとぼやいていた司自身の過去がやたら気になるけれど。

『司先輩、高校時代は女の子にも男の子にも人気があったんですけど、あんなに全身から幸せオーラを出して笑顔で恋人の事を語るなんてなかったんですよ。
いつも女の子に追いかけられて逃げてるばかりで、自分の思いを素直に口にするなんて、なかったんです。ふふっ朝からいいものを見せてもらいました。でも、その相手は真珠さんですもんね。さすが、女王様です』

ほんの少し夢見がちな瞳で呟いた大村さんの言葉に救われて、どうにかその日の仕事をすすめる事ができた。

お昼休みの食堂で、周囲の人たちからの好奇心に満ちた視線を全身に浴びた事を覗けば、どうにかその日をやり過ごす事もできたし。

女性社員達からの、ほんの少し意地の悪い声も耳に入ったけど、ちょうど一緒に昼食をとっていた貴和子が睨み返してくれて、必要以上の騒ぎにはならなかった。

けれど、そんなあれやこれやでわかったのは。

司が社内中に結婚が決まった事を広めてしまったっていう事だ。

……その日、落ち込む女王様のため息は何度も続いた。