「あんた、またそんな狭い所入って・・・出るのめんどくさいってのに」

2列目の椅子を倒さないと入れない、3列目に座るのが奈緒は好きだ。

「いーもん、お姉ちゃんが出てからゆっくり一人で出るから」

「そんな事より、足どうしてそんななっちゃったの・・・」
お母さんが、不安そうにたずねた。

「サッカー部のボールがあたったの、保健室で手当てしてもらった」

サッカー部のボールがあたって男に手当てしてもらったなんて言えば
お母さんは角が生えて、失神するだろう。

「そう、明日朝も送るから放課後調子よかったら自転車、駅から持って帰りなさいよ」

疑うこともなく、お母さんは運転を続けた。


「大野淳平?」

朝の通学電車の中で昨日の事を真衣に話すと

その相手の名前を教えてくれた。

お父さんが、シップを貼ってくれたおかげで足はもう

痛くもかゆくもなかった。

「うん、そうだよ~ 大野先輩かっこいいよねぇ 人気高そうだし
美咲は幸せなんだよお」

真衣が言った。

幸せ?あの冷たい上から目線の男が人気?あり得ない。

そんなの、人前では男は顔じゃないとか言ってる人のただの嘘の表れ・・・。

確かに、あの人は普通の男子に比べたらずば抜けてカッコイイけど。

まぁ・・・。ただ当たっただけだし。関係ないか―!!