おかしいな、と思って自分の胸を見たが、そこにはただの傷痕が残っているだけ。


斬られてからさほどの時間も経っていないのに……。




そう思ってからもう一度とよを見たとき、彼女はふらりと体を翻しそのまま先へ進もうとする。






何処へ行くんだよ、とよ。





呼び掛けようとするが、声にならない。


暗がりに消えていく彼女に手を伸ばそうとするが、その目的さえも見失ってしまいそうになる。



とよが一瞬こちらを振り向いたかというとき──






「──とよっ…!あいたっ!」





もう少しで彼女に追いつくようなところで名を呼ぶ声が出た。


……と思ったら、鋼のような硬いものに頭を打った。



その衝撃に目の前がモヤっと黒い雲が現れるが、それはすぐに消えていく。



そして、消えていって視界が開けた先に見た風景は中庭でもなく、暗がりでもなかった。





自分は何故か布団に寝かされていたみたいだ。


それに、今まで痛みが無かった胸には熱と共に今も尚切り裂かれるような痛みを伴っていた。




「さっきのは……夢?」




だったら泣いていたとよも夢だということになる。


だが何故だろう。
彼女が恐怖に侵されて苦しみ、泣いている気がしてならない。






そんなふうに物思いにふける源九郎の布団の横に人がいた。



「目が覚めましたか、源九郎」