いつの間にか、手紙は涙で濡れていた。
でも、その前から濡れた跡があった。
彼女の涙だ。
「何だよ……、物に触れるんじゃん。馬鹿野郎」
彼女に触れられなかったこともまた、彼女なりの愛だと思う。
触れていたら、きっと俺は余計に彼女と離れるのが嫌だったに違いない。
最後に触れたのは、俺達が求め合ったからだ。
彼女も、俺に触れたいと思ったから。
「知ってるか? 俺達、最後の最後まで繋がってるんだぜ。好き合ってるんだぜ」
そう言って俺は、ポケットからしおりを出した。
「女郎花の花言葉は“約束を守る”。生徒会に頼んで、校舎裏に女郎花を植えて貰ったんだ。生徒会長が校長先生に一生懸命頼んでた。優しい幼馴染みだな」
俺はしおりをギュッと握った。
彼女の為に、女郎花を選んだ。