原木君は彼女を傷つけたということに、傷ついてるに違いない。


「原木君を……恨んでるのか?」

「まさか」

彼女は空を見上げ、微笑みながら喋った。


「確かに原木が走らせたせいで、あたしは発作が起きて死んだ。けど、最後に走れて良かった。走ることがこんなに気持ちの良いことだって知れて、嬉しかった」

彼女はきっと、いや、絶対原木君を嫌ったりなんかしていない。

彼女は傷ついてなんかいない。


「原木はあたしに、幸せを味わせてくれた。感謝してる。まあ、原木のせいで死んだんだから、一発殴りたい気分だけど」

彼女から殴りたいなんて言葉が出てきて、かなり驚いた。

そんな人に見えない。

けど、俺も原木君を殴りたい気分だ。

原木君が彼女を走らせたりしなかったら、俺は、生きている彼女と出会えたかもしれないのだから。