「っとー。嵐さんカクテルモドキとかあったんで毒見用に持ってきたっすよー」


なんていう、聞き慣れた声が割り込んできて、俺は思わずため息を呑みこんだ。

女子生徒が「な、なんですの!?」と驚いた様子で、自分たちの間を割って入ってくる小さいメイドを見下ろした。

今の今まで姿を見ないと思っていたら、どうやら面白そうな食いモンや飲みモンを探していたらしい。

山田はどこまでも山田で、そしてどこまでもフリーダムだった。

そこに居た全員が山田を見下ろす中、俺はひとり、密かに笑みを浮かべた。


「うおっと、すんませんお嬢様、間通りまっす」

「な、ちょっと、あなた!」

「メイド科の方!?」

「私のドレスを汚したらどうするのよ!」

「きちんと仕事してください!」


カクテルモドキとやらの入ったグラスをトレイに乗せ、それを持って間を割って入ってくる山田に、女子生徒等が慌てて目くじらを立てる。

その気持ちはよくわかる。大いにわかる。

が、コイツはこういうヤツなんだ。

俺の目の前に辿り着き、立ち止まった山田を見下ろす。

山田は俺を見上げていた。


なんかもう、それだけでいい気がした。


「……で、何を毒見させに来たって?」

「カクテルモドキ。モドキっすよ、モドキ。金持ち学校のクセに超ありえねっすよ」

「まあ全員未成年だしな。」

「ネーミングセンス皆無っすよ」

「じゃあお前はなんてつけるんだよ、名前」

「『カクテルかもしれない』」

「同レベルだよバカ。」