あーホント、最近まったくらしくない。
いや、そもそも、らしさってなんなんだ。
そんな無駄な思考を始めること自体、すでにらしくないってことか。
そうやって悶々と、自分の膝に顎を載せて考えている俺を知ってか知らずか、宮埜はおもむろに腕時計を見つめた。
「おっと、そろそろ時間じゃないのか?」
腕時計から、ちらりと俺に視線を投げる。
その目には、別にここでかくまってやってもいいが、さあどうする?という意思が、確実に込められていた。
かくまってやってもいいが、なんつー上から目線は上等だ。
が、あいにく俺の中には今、面倒だから気が進まないという思いはあるが、行かないという選択肢はない。
だから、椅子から立ち上がった。
宮埜が物珍しげに、俺を見上げた。
「なんだ、結局参加するんじゃないか」
「俺が会場に居ないと、うるせぇメイドが居るんだよ」
「山田ちゃん?」
「他に誰が居る?」
逆に聞き返すと、宮埜は短い口笛を吹いた。
コイツはちゃかすのが大の得意だ。
「いいねぇ、お熱いこと。俺は胸焼けしそうだよ」
「毎日甘ったるい菓子パン食ってるやつが言ってんじゃねーよ」
「こういうスイーツには縁がなくてね」
「こういうスイーツも悪くない」
俺がにやり、笑ってみせると、宮埜もにやり、笑ってみせた。
「じゃあな、仕事せいぜい頑張れよ」言いながら右手を持ち上げる。
「お前もな」宮埜は右手をひらりと揺らしてそう言った。
俺は重たいドアを、後ろ手に閉めた。