宮埜は「ふーんだ」とか言いながら椅子をくるりと回し、パソコン画面へと顔を向けた。
右手に持ったチョココロネをかじりながら、画面の上から下までを一通り確認している。
こんな隅っこの方にある塔で、よくもまあ1日中引きこもっていられるなと、ある意味感心さえするレベル。
それが宮埜の仕事だし、しょうがないと言えばそれきりだが。
机の上はパソコンで常に埋まっていて、他のものを置くスペースなど最初からなかったかのような配置だ。
なので俺は弁当を足の上に置き、包みを開く。
普通の弁当箱だ、と思う。
そもそも弁当箱を見る機会などまったくないと言っても過言ではなく、たまに見る弁当箱は一般的なそれとはかけ離れている。
重箱を持ってくるなんてのが一般的じゃないことくらい、さすがの俺でも理解していた。
だから“普通の弁当箱”と説明してみたはいいが、果たしてそれば正解かはわからない。
と、いう俺の心情をまさか読んだわけではないだろうが。
「あれ、案外フツーの弁当なんだ」
宮埜がこちらに身を乗り出すようにして、弁当箱を見下ろしながらそう言ったので、どうやらこれは普通の弁当箱で間違いないようだ。
「なんかもうちょっと、金箔でも貼られた弁当箱かと思ってたんだけど」
「用意したのは山田だろうからな」
「さすが、山田ちゃんは常識わきまえてるね」
「大理石の掃除しながらせんべい食ってるヤツのどこが常識わきまえてんだよ。」
思わず愚痴ると、宮埜は空いている左手で自分の足を叩きながら笑った。
珍しくツボに入ったらしい。
「はっは……彼女サイコーだな」
いまだ笑みの残る表情で目尻の涙を拭いつつ、宮埜は山田をそう評した。