弁当を持っていく、なんて発想は一切なかった。

弁当なんて作ってもらったこともない。


山田はたまに、ホント不意に、こういうことをやってのけるから、ムカつく。



「……いいよ、持ってく」


山田の背中にそう言った。


「学食とか滅多に行かねーし」

「あれ、そうなんすか」

「めんどくせぇから、いろいろと」

「あー、追っかけっすね」

「なんだ知ってんのか」

「まあ育成科でも嵐さん有名ですし。わたしも大変っすよーみんなに質問攻めされますから」

「それはそれはお気の毒」

「嵐さんの第一印象変態だって言っときましたから」

「お前ぶっ飛ばすぞマジで。」


やだなー嵐さん、冗談っすよー。

ひらひらと右手を振ってみせる山田。

お前の冗談は冗談に聞こえないから今すぐやめろ。一刻も早く。


「……もういいから行けよ。仕事」

「あーそうでした。いとしの大理石が待ってるんでした」

「磨きすぎんなよ」

「わかってますってー」


言いながら山田は立ち上がる。

広い部屋を横切ってドアを開け、思い出したように振り返り、


「嵐さん二度寝したらダメっすからね」


そう、念を押すように言って出て行った。


「……わかってるっつの」




気づけばいつの間にか、朝のイライラは消えていた。