自分の立場をまるで分っていないような気しかしない。
メイド育成科に通ってるっつーのにこれだから。
今だって、山田はボフッと無遠慮に、俺が居るベッドに腰掛けて後ろ手をつく。
ありえねぇ。屋敷内で迷子になるのもありえないが、この態度もマジでありえない。
それが山田のスタイルなんだろうけど、というのは初日ですでに理解済みだ。
山田はベッドに座ったまま、足をプラプラと揺らしながら口を開く。
「嵐さん起こすのは一苦労っすよ」
「低血圧なんだよ」
「メイドの朝は忙しいんすよ?」
「くつろいでるヤツが何を言ってる?」
「もー嵐さんわかってないっすねー。一時の休憩ってヤツですよ」
「一時の休憩を人のベッドでとってんじゃねぇよ。」
「嵐さん心狭すぎっすよ」
「お前は遠慮の心を持てよ。」
「十分遠慮してるじゃないっすかーこんだけ広いベッドのこの範囲にしか座ってないんすからー普通だったら寝転びますよー」とかほざいてやがるこのメイドをどうしてくれよう。
今気づいたが、山田の手にはモップが握られていた。
どうやら俺を起こしに来ながら、大理石の掃除をしていたらしい。
それでも起こしにくる時間は毎日きっかり7時で、出来がいいのか悪いのか、コイツはホントに分かり辛い。
朝から大理石の掃除をしたがる山田に、起こしに来いと言ったのは俺。
山田は渋々と言った様子で『わかりましたよー』と口を尖らせ了承した。それが5日前。
1日目、普通に起こしに来た山田だったが、しかし俺がなかなか起きないタイプだとわかると、一度どこかへ消えていき、戻ってきたとき両手に辞書やらダンベルやらを持っていたのが記憶に新しい。
お前は俺を殺す気かと怒れば、『えーだって起こせって言ったの嵐さんじゃないっすかー』と反抗してくる。
起きるどころか永眠するだろ。