「……………ぇ…」

なんでそれを知ってるんだ?


顔にそう書いてあった。


「…何のこと?」


「そのままですけど。
忘れられない人がいるんじゃないんですか?」


黙ったまま言葉を探す彼に、あたしの中で全てが一致した。


だから今まで本命を作らなかったんだ。
1番大切な人が居たから。


「…ごめん。
確かに忘れられない女がいる。
でもそれは今までの事で、今は……」

「そんな曖昧な気持ちであたしと関係を持とうとしてたんですか?」



「曖昧じゃない。
舞ちゃんは俺の特別だって言ったじゃん。」


「……信じられない。
ごめんなさい。」

立ち上がって部屋を出ようとするあたしの腕を力一杯彼が引く。

「待てって!
なんで信じられない?
俺が遊んでるから?
確かにふらふらしてるから、不安だと思うよ。
だけど絶対舞ちゃん泣かせたくないって思うし…」


「あたしが前の彼女忘れられたか聞いた時、すぐに否定しなかった。
誤魔化そうとした。
そんなの信じられない。」



「舞ちゃん……。
頼むから、信じてもらえるようにするから、今までみたいなのでいい。
避けないで俺を見てて。」


一度不安を覚えると何を言われても信用出来なくなる。
きっとそのうちあたしなんて飽きて、他の女とまた同じ事を繰り返すんだろう。

「あたしが信用するのと佐々木さんがあたしに飽きるのどっちが早いんですかね。」

「飽きないよ」

彼の少し怒った声を後に部屋を出た。


昨日まで他の女と寝てた男をどう信じればいいの?



あれからしばらく、避けているわけではないのに彼と会っていない。

陽奈にその事を言うと、あたしが正しいと何度も頷いた。


「他の女には言わないとか、そんなの信用出来ないよね。
好きとか彼女にしたいとか、一言も言われてないのもあやしい。」


そう。
好きっていう言葉を聞けてないのは大きかった。
恋愛経験のないあたしにとって、初めての恋愛になるかもしれないのに、曖昧で流されたくない。




いつものように陽奈と駅に向かって歩いていると、門のところで携帯をいじっていた男の子が、声をかけてきた。

「あの……!」


自分か陽奈か分からず2人で顔を見合わせていたが、彼の目線があたしだったので、はい?と返事をした。

「いきなりでびっくりすると思うんだけど…彼氏とかいなかったら、連絡先教えてもらえないかな?」

鈍感なあたしでも分かる。
この子あたしに気がある。

目が大きくて童顔。
細身だけど身長は佐々木さんよりも大きい。




「あ、あぁ……えと。
彼氏はいません。
連絡先………番号とかですか?」


オロオロするあたしに、嬉しそうに笑って、携帯を取り出す彼。

「今日、連絡します。
名前…堤 晴人っていいます。」

じゃ、と立ち去る彼と、隣でニヤニヤする陽奈。

「モテモテだね、あなた♩」

「どうしよう!」

「いいじゃん!
可愛いかったよ、結構!
遊んでみたら?」



あんまり気が乗らないな、とぼんやり家に帰る。

すると、部屋の前でタバコを吸いながらこちらを見る佐々木さんがいた。


「……久しぶり。」

「…久しぶりです。」


そのまま扉を開けようとした時、腕を力強く掴まれた。

「避けてるの?」

「避けてません。」


「…………会いたかった」


優しく笑ってあたしを抱き締める。


胸がギュッと締め付けられる。


「……………。
離して。」


「ほんとに、舞ちゃんの顔を見れないと寂しいんだよね。」







「…離してってば。」

「離さないよ。
どれだけ会いたかったか分かる?」


更に腕の力を強める佐々木さんに、泣きたくなる。
だけど、まだダメ。
この人にちゃんとあの言葉を聞くまで信用しないって決めた。


「……あたし、佐々木さんのものじゃないんで。」


無理矢理腕から逃れ部屋に入った。


あたしの中であの人が好きだって溢れてる。
だけど、あの人が他の人を忘れられないのが許せなくて。

これが恋の独占欲って物なんだと思い知る。




さっそくその夜堤くんから連絡が来た。
しばらくメッセージのやりとりをした後、電話がかかってきた。


「はい?」

[あ、もしもし?
いきなり電話とかしてごめん。
話しをしてみたくて。]


「いいよ。
ビックリしたけど。」

[ごめんごめん。
今…家なの?]

「うん、家。
堤くんは家じゃないの?」

[や、俺は今車の中。
バイト終わりだから。]


他愛もない話しだけど、なんだか楽しかった。
その日から毎日電話が来る様になり、大学でもちょくちょく顔を合わせるようになった。


大学生らしく、明るくて楽しくてまっすぐな人。


隣人は高校教師

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