私は、ただこの温もりに酔いしれていたかっただけなのかも知れない。
でも、なぜか名前と顔が思い出せない。
こんな私で言い訳がない。
私は、慧ちゃんの胸を押して自分から離れた。
「雪奈?」
慧ちゃんは、不思議そうに私を見つめた。
「慧ちゃんは、雪さんが好きなんだね………………
でも、私は全ての雪さんに関することを思い出した訳じゃあ無いの………………
それにね、私は、雪奈だから………………
雪さんじゃあ無い!
確かに雪さんの記憶も思いもあるよ…………………でも、今の私の名前は雪奈だから……………
それにまだ顔も声も思い出せないの!
だからごめんね!」
そう言って私は、教室から飛び出した。
後ろから慧ちゃんの声が聞こえたが振り返ることが出来なかった。
私の中に雪さんの面影を見ている慧ちゃんをこれ以上見れなかった。
目の前が涙で歪む。
ねぇ?雪さん?貴女はどんな人?
気付いた私の目に映ったのは大きな千本桜の下の立つ女の子。
私と瓜二つの顔を持つその人は、黙って私を見つめている。
「貴女は、雪さん?」
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