「服よし。メイクよし。うちわよし。
  ケータイ、財布・・・
  うん。ばっちり!!」

鏡の前で全身をチェックして、
ニコッと一度笑顔を作る。

完璧。

「お母さん、いってきまあーす!」

「楽しんでらっしゃい~」

最寄り駅まで歩いて行くのが
とても楽に感じた。
学校に行くときは
長くてたまらないのに・・・

「結愛!」

駅には莉子がもう待っていた。
莉子もなんだかんだ、
気合いが入っている。

「楽しみだね~」

そんな会話をしながら
会場へ向かった。



コンサート会場の最寄り駅を出ると
路上でアイドルの生写真を販売していた。

「うわ~人多いなぁ」

そのほとんどがRailのもの。
私は常識をもっているつもりだから
著作権を破っているこんな所では買わない。

「生写真いかがですか?」

黒いスーツの男性が私たちに声をかける。
手には翔人くんをはじめ、
Railの生写真を持っている。

「いえ、結構です」

Railを使って稼いでいることを
腹立たしく思った私は
冷たく返した。

「おや、ファンの方ではありませんか?」

「大ファンですけど、こんな所では買いません!」

「いいじゃないですか~。お安くしますよ~」

黒いスーツの男は
私のことをジロジロ見ている。
気分が悪い。

「著作権の違反ですよ」

スーツの男を睨みつけて言う。

「これはファンの鏡だ。感心いたしました。では、お詫びにこれを」

男が差し出してきたのはRailの公式バッジ。
Railのライブの時、バッジを胸につけるのがファンの中でお決まりなのだが、
初めて見るタイプのものだった。

「あの~・・・」

どうせこれも勝手に作ったものなのだろうと思って
反応に困っていると

「これは特別モデルのバッジです。
まあ、つけていってください。
きっといいことがありますよ♪」

なんて言って私のブラウスの襟に
そのバッジをつけた。