「はい」


私は声の主へと身体の向きを直した。


「サエちゃん、だよね」


自信が無いのか声が少しかすれていた。

声をかけてきたのは私と同い年くらいの青年だった。

よれよれの七分丈のシャツに所々付いた汚れが目立つジーンズ、最低限の清潔さを保たれた黒髪は目にかかっていて少し怪しげな雰囲気だ。

なんで返事してしまったんだろう、と少し後悔しつつ、私はどこかで聞いた事があるはずのその声をどこで耳にしたのか思い出すのに必死になった。


「サエちゃん、いま物凄く考え事してる?……もしかして、俺の事忘れてる」


私は図星を点され、一瞬肩がぴくりと持ち上がった。

相手とどんな間柄だったのか分からず、どういうノリで答えたら良いのか悩み、私は青年の顔色を伺う。

長めの前髪からのぞく瞳は灰色で、どこか寂しく揺れている様だった。

「ごめんなさい、どこかで……」と、私が口を開くとそれを消すみたいに青年が言う。


「呂玉町で昔一緒に遊んでた三鷹平次」