走馬灯は何故この場面なのか。

人生の最後に何で他人の足の話を思い出さなくちゃいけないのか。

言いたいことはたくさんあったが、言ったとしても無駄だろう。
とりあえず、琥珀が見た走馬灯はなんとも微妙なものだった。


琥珀が確か中学生の頃のことだ。
理科で圧力の勉強していた時の先生の話。



「僕の友人はお相撲さんに足を踏まれたことがあったらしいんです。幸いにも、足の骨が折れるようなことはなかったようですが。」

理科の先生の話が脱線するのはいつものことなので琥珀は適当に聞き流していたような気がする。

だが、この話を走馬灯で見るくらいだから何か印象に残るような話だったのだろう。


「しかし、彼は僕と一緒に電車に乗ったら今度は女性に足を踏まれたのです。しかもヒールで。さらに悪いことに彼は踵のヒール部分だけに踏まれたのです。」


理科の先生はそこで一回咳払いをして黒板を示す。
圧力は同じ力なら面積が小さい程大きくなる。
つまりは、

「お相撲さんでも大丈夫だったのに、ヒールにより圧力が大きくなった女性の体重に彼の足の骨は折れてしまったのです。」



そこで理科の授業風景は途絶えた。

何故走馬灯はこの場面だったのか。

謎だ。
こっちは車に突っ込まれて全身骨折しそうなのに。
足くらいいいじゃないか。

こっちは死にそうなんだよ。