…ハァ、ハァ、ン、ハァ、ハァ。
「もう死ぬのかな、俺?」
呼吸のリズムとともに、柴田の首の傷から勢い良くピュッ、ピュッと飛び散る。
「血って、こんなに黒かったんだった…」
霞む視界には、涙を流しながら口元をゆがめ、嗚咽にも似た声にならない声を発している実の母親が包丁を両手に握りしめ立っている。震えているのが自分なのか母親なのかわからないが、ひどく揺れている。
…ハァ、ハァ、ン、ン、ハァ、ハァ。
「息が吸えない、苦しい。」
柴田の傷口から飛び散っている血の勢いがだんだん無くなってきた。
「…死ぬのか。俺が殺してきたひとびとも、こんな感じだったのかな。」
急に視界が数人の男の陰によって遮られ、母の姿が見えなくなった。そして柴田はいっそう、自分の死を自覚した。
「あれ?死ぬ前によく見えるっていわれている走馬灯のような人生のフラッシュバックが見えない。どうしてなんだ…ろ。」
柴田は絶命した。