「はーあ…」


私はふと、桜の木を見たくなって、教室の端っこに向かった。


……また、悲しい想い出になってしまった、あの桜の木。


大切な想い出だったのに。


「高野のバーカ…」


八つ当たりするように、呟く。


何が、『この場所の想い出を、今この瞬間の光景に書き換えろ』、よ。


本当に救われた言葉だった。


ずっと好きだった先生のことを諦めることができたきっかけの言葉。


そして、高野のことを好きになれたきっかけの言葉だもん。


桜を見るたびに、高野の言葉を思い出して、温かい気持ちになれたんだ。


でも…


もう、想い出に浸るのは終わりにしなきゃ…。


ツラいけど…寂しいけど…


桜の木を見るのは最後にしよう。


そう思いながら、私は桜の木を眺めた。