「そんな事聞いてない。」
「あぁ、言ってなかったからな。それでオレはお母さんが死ぬまでずっと看病していた。
本当は言いたかったんだがアイツが許さなかった。」
「お母さんはいつ死んだの?」
「昨日…。オレがスーツ着ていたのはそれが原因だ。アイツの看病していたらソコの病院
の看護師をしていた亜紀に出会った。顔は別人なのだが、どこかお母さんと似ていた。
お母さんに言われたんだ。『死んでも幸せになって』って。」
「…。それで亜紀さんと?」
「あぁ、きちんと報告したよ。アイツが生きてる時に。その時アイツ言ったんだ。
亜紀に『真奈をお願い』って…」
「そんな…」
「その時亜紀は言った。『真奈ちゃんは私がアナタに変わって、きちんと面倒を見ます。』
あの時の亜紀の目には強い意思があった。その目を見たアイツは笑ったよ。
『アナタもイイ人見つけたわねっ。安心して逝ける。』って。
それがアイツの放った最後の言葉だった。」
「なんで言ってくれなかったの?私、最後くらい会いたかった。」
「アイツは新しいお母さんと上手くいって欲しかったんだろう。
でも、葬式に行くとそれがダメになってしまう。
今まで苦労していたのが水の泡だ。だから言わなかった。」
「…。」
「アイツの気持ちも分かって欲しい。看病してる間ずっとお前のことが気になっていたからなっ。」
私は信じられなかった。
私の前を去った時のあの冷たい目は偽物だった事に。
そして、もうお母さんはこの広い空の下にいないのだと。
「ねぇ、明日でもダメ?」
「なにが?」
「亜紀さんに会うの、明日がイイ。」