ゆかりに反抗することは簡単だが、後々のことを考えると面倒くさいのだ。と、いうのも幸枝は、過去に一度反抗して痛い目にあっているだ。

 入社してすぐ、ゆかりがミスをした。それを幸枝のせいにしたのだが、幸枝は反論。その場は難なく収まったのだが、ゆかりは、古くからいる現場のパートさん達に捩曲げて伝え、味方に付けてしまったのだ。

 それ以後、幸枝を快く思っている人は少なく、未だに冷たく接してくる。

 時間ごとのレジ行きが憂鬱なのは、こんないきさつがあったのだ。

現場の方は、あまり接点もゆっくり話す機会もないので誤解されると解けないが、事務所内はゆかりの性格を充分、分かっているので、幸枝だけを悪者にすることは、まずない。

 その点だけは安心している。

 雑巾を洗い、席にもどると、

 「川口さん、明日休みたいんだけどいい?」

 ゆかりがニッコリと話し掛けてきた。

 「えっ?明日?」

 「そう、明日。実は病院に検査の結果を聞きに行くことになっちゃって…お願いします」

 ゆかりが両手を合わせて、おでこにつける。さっきのことは無かったかの様に。

 「あれ?明日は川口さん、授業参観だかで休みじゃなかったか?」

 調度、部長が一ヶ月の予定を書き込むホワイトボードを見て、幸枝に確認した。

 「えっ?そうなの?」

 「あ、うん…。でも、授業参観は午後からだから、午前中は出れるけど…」
 「じゃあ、お願いしていい?」

 「おい、おい、突然だなぁー。病院なら前もって予約してるんじゃないのか?」

 部長が、ホワイトボードに、自分の予定を書き込みながら言った。

 ゆかりは、部長に言われたことにムッとした。

 「なら、いいです。予約は取り消します」

 ゆかりはぷいっとして、パソコンに向った。部長は黙って、ホワイトボードに予定を書いている。

 『えっ…?簡単に取り消せれちゃうもの…?』

 こんなことが今まで何度かあったが、いつも幸枝は呆気に取られてしまう。