『またか、疲れる…』

 この半年、似た様なことが何度もあった。

 取引先の電話を、部長に伝え忘れてたことを幸枝に頼んだと嘘をついたり、発注を忘れていたりと、何度も幸枝のせいにしてきた。

 幸枝がウンザリした顔でゆかりを見ていると、

 「本当に連絡は、あったのか?」

 部長が幸枝を見た。

 部長とゆかりの二人の視線が幸枝に突き刺さる。

 思わず、携帯を握り締めた。

 「いえ…あ、携帯の充電が切れてたみたいで…すみません…」

 「そうだったのか。高橋君、川口さんに連絡するんじゃなくて、ちゃんと会社に電話しなさい」

 不機嫌そうに、眉間にシワを寄せながら強い口調で部長が言うと、ゆかりは、

 「はーい。でも、会社に連絡しても川口さん以外、誰もいないから逆に気を遣ったつもりだったんです。すみません」

 ゆかりは軽く頭を下げながら、甘えた声で言った。

 ゆかりは幸枝の隣の自分の席に座ると、舌を出しながらパソコンを付けた。 

 『よくもまぁ、ぬけぬけと…』

 いつもゆかりには、煮え湯を飲まされる。幸枝はウンザリしていた。

 ゆかりは幸枝より3つ年下で、結婚はしているが子供はいない。

 不妊治療を何度かしているようだが、中々、上手くいかず、子供がいて、しかもマイホームまで手に入れた幸枝をいつも妬んでいるようだ。

 不妊治療は高額で保険が効かないため、全てが自己負担となる。そのため、マイホームを諦め、働いた給料を不妊治療に当てていると、いつかゆかりが話していた。

 そのことには同情して、治療後は『身体の調子が悪い』と休むゆかりを助けている幸枝なのだが、いい加減、嫌になっていた。