煙草を半分まで吸い終わると、灰皿に灰だけ落として、次も吸える様に器用に消した。

 会社が終わって、帰宅までの時間で吸う分として残しておくのだ。

 家を購入してから、節約の一つとして、幸枝なりに考え、セコく感じても、いわゆるシケモクをしている。

 「さてと、行くか…」

 少し開けていた窓を閉め、車から出た。

 スーパー正面の左手に歩くと階段があり、上るとすぐ事務所に通じるドアがある。

 ドアノブを回し、そっと扉を開ける。

 「おはようございます」

 幸枝は、頭だけひょこっと出し、キョロキョロと事務所内を見渡した。

 「おはよう、早いね」

 スーパーの部長だ。
 いつもは、昼過ぎにならないといないことが多く、いると少し緊張してしまう。

 「おはようございます」

 もう一度頭を下げながら挨拶し、事務所に入った。

 幸枝は自分の机にカバンとマフラーを置くとすぐに、パソコンを起動させ、そのまま事務所の左奥にある給湯室に向かった。

 電気ポットの水を替え、雑巾を絞ると、丁寧に6つある机と電話機や、応接室のテーブルと革製のソファーを拭いた。

 給湯室に戻り、トイレ掃除をしようとすると、部長が、読んでいた新聞を右にずらし、黒ブチ眼鏡を頭に乗せて、目を擦っている。

 給湯室は、事務所の入口から見て左奥で、トイレは右奥にある。

 「掃除の途中で悪いけど、お茶かコーヒー煎れてくれないか?」

 「は、はい」

 幸枝は慌てて洗面所に戻り、ポットのお湯が沸いているかを確認した。

 『よし、沸いてる』

 右手の親指を思わず立て、グーッとした。 

 給湯室にドアはなく、長い暖簾一枚で隔てられているので、事務所の声は丸聞こえだ。

 部長のコップを手にとり、インスタントのコーヒーを入れた。

 お茶かコーヒーかを一瞬悩んだが、お茶だと後々、急須を洗うのが面倒なのでコーヒーにした。

 『あれ…?砂糖とか入れたっけ?いつもいないから分かんないな…』

 趣味の悪い、古ぼけた暖簾を掻き分けた。