「じゃぁ、行って来るね」

幸枝は、近所のスーパーの事務のパートに出かけた。

半年程前に、念願のマイホームを買い、少しでも家計の足しになれば…と、朝9時から昼の1時までの4時間だが働くことにしたのだ。

 時給800円で、土日祝は休み、小学生の子供を持つ幸枝には都合良い条件だったので、求人情報誌を見た時すぐに面接有無の電話をし、面接した二日後には働いていた。

仕事内容は、簡単なパソコン入力と電話番だった。仕事経験ゼロの幸枝でも、インターネット位は出来るので、困ることは別になかった。

 幸枝には、小学1年の男の子と小学4年の女の子がいる。大成と桜子だ。

 幸枝の夫である正行とは、高校2年の時に同じクラスになったのが縁で付き合い始め、正行が大学を卒業し就職が決まったのをキッカケに結婚し、翌年には、桜子が生まれた。

 幸枝は、正行の誠実で真っ直ぐな性格に惹かれ、何の迷いもなく結婚したが、パートに出る様になって、一度は就職して会社というものを知っておけば良かったと、少し後悔した。

 学生時代とは違い、いろんな年代の人が同僚として働いているので、人間関係が難しかったのだ。

 「ふぅ〜」

 幸枝は車のエンジンを止め、タバコに火をつけた。会社に入る前の儀式のようなものになっている。

 幸枝にとっては、一種の精神安定剤だ。

 『また今日も、おばさん達に言われるだろうな…』

 まだ、誰も来ていない駐車場で、車の窓を少しだけ開けた。

 事務所の中だけなら何の問題もないが、現場の多くは40代から50代が働いてる。当然、女性が大半で、長く働いてる主のような人もいて、派閥もある。

 唯一の接点が、決まった時間ごとに現場のレジに行き、一万円札の回収と両替用の補充をする時だ。

 一つ一つ各レジに、声を掛けながら、素早くしなければならない。幸枝は、この時が1番緊張するのだ。