濃いグレーのカーディガンの下には、白い長袖のブラウスと膝丈のタイトスカート。

 車で通勤していて、暖房が効いている事務所内だけなら充分な服装だが、真冬の空の下で立っているのは拷問に近い。

 『はぁ〜〜〜』

 手をゴシゴシと擦りながら、真っ白な息を吹き掛ける。

 「寒い〜〜」

 何度か信号が、赤、青、黄色と順に変わっていく。

 駐車場の方から人が歩いて来た。

 「あっ、部長だ」

 やっと、この寒さから抜け出せると喜んだ。

 店の外に立っているのが幸枝だと分かると、部長は走って来た。

「おい、中に入ってて良かったのに。大丈夫か?寒かったろ?入るぞ」

 「はい」

 返事が終わらないうちに、幸枝の背中を押しながら店に入った。

 「いらっしゃいませ」

 ドアが開いた瞬間、店員全員が大きな声で、元気良く挨拶した。

 思わず、部長も幸枝もたじろいだ。

 「2名様で宜しいですか?」

 入口近くにいた、バイトの店員がすかさず二人を案内する。

 幸枝が部長と顔を見合わせた。

 「2名様ご案内!」

 「はいー!2名様、8番にご案内!」

 またも、店員同士の掛け合いで店中に響き渡る。

 「こちらへどうぞ」

 案内された席は、個室の様な造りだった。

 カウンターの他に、かまくらの様な造りで、個室タイプがいくつかあった。

 個室といっても、カラオケの様な完全な個室ではなく、隣同士は壁だが、入口は、薄い透ける素材の暖簾の様なもので区切ってあるだけだ。

 「どうぞ、おしぼりです」

 「ありがと」

 幸枝、部長の順に渡され

 「先に、お飲み物お伺いします」

 店員がメモ用紙とペンを取り出した。

 「とりあえず俺はウーロン茶で…川口さんは、遠慮なく飲んで。ビールでいいかな?」

 「あっ…え、はい」

 「ビールとウーロン茶、注文入りました」

 店員が大きな声で、また言うと、

 「はい、かしこまり」

 カウンターにいた店員が、また大きな声で返事をする。

 そんな対応に、幸枝は笑ってしまった。

 「ここ、面白いですね」

 「元気があるな〜」

 「ふふふ…」