「残念ですが···。」
医者の男はそう言い、私を奈落の底へ突き落とした。
私は、今日から一人···なんだ。大切だった者を全部失った。
まだ幼かったあの日、運命が変わってしまった。今でも悔やみ続けてる、あの日私があんなこと言わなきゃ···。
お父さん、お母さんにもう会えない···、幼い私をそんな現実が襲った。
お父さんとお母さんの遺体の横で、人目を気にせず大声をあげて泣いた。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい···そう叫びながら···。
もう一度会いたい、会って謝りたい、会っていっぱい話したい、抱き締めてもらいたい、
そんな思いが込み上げて涙が止まらなかった。一人はいや。
泣きつかれたのかいつの間にか眠ってしまっていた。でも目が覚めた時私は誰かの腕のなかだった。もう感じることはないと思った温もり、そう考えるとまた涙が出てきた。
耳元で聞こえる規則正しい寝息、かすかに香る香水のいい香り、私は一人じゃない、すごく安心した。今のこの温もりを失いたくない。私はそっと体をおこし、私を抱き締めていた人物の顔を見た。とても綺麗な人だった。髪は腰くらいの黒いきれいな髪で、透き通るような白い肌、上品な薄い唇、それはどことな死んだ父に似ていた。
「おかあさっ···っ」
私が泣いていると、女の人が目を覚ましたようで、吸い込まれそうな大きな黒い瞳でこちらを見つめていた。すると彼女は薄く微笑んだ。
「大きくなったわね···。」
まるで私を知っているかのような口振りで彼女は口を開いた。
「あ、あなたは、私を知っているんですか···?」
すると彼女は目を丸くしてこちらを見た。
そんな顔されたって···私が軽くため息を吐くと彼女はまた話し出した。
「覚えてないかぁ···ちょっとショックっだけど、もう何十年も前だから無理もないか。私はね、鷹野紗英っていうの、まぁ貴女の叔母にあたるわね。」
叔母さんなんて居たんだ私···。
なんでかは分からないけど、私は親戚に会ったことが無かった。だから親戚なんて居ないものだと思ってたのに···、一人じゃなかったんだ。
「わ、私は鷹野香恋っていいます。本当にごめんなさい。覚えてなくて···」
申し訳なかったんだ。せっかく会えたのに、覚えてなっかた、それがただただ悔しくて、虚しくて···。
「アハハ、何ィ?かしこまっちゃってカワイィ!良いのよ。それよりも逢えたことに意味があるんだから。まぁそれより本題に入りましょっ。あなたのご両親がね生前に私に手紙をよこしたの。」
そういうと一枚の紙を渡された。そこにはきれいな文字がツラツラと書き連ねられていた。
読んでみて、と紗英に促され、香恋は手紙を読み始めた。