彼女は幽霊〜八月〜




愛奈が死んで
2度目の夏…



僕は21歳になってた



もう決して
愛奈には逢えないと
思ってた…




八月十五日


……〜…♪


鳴るはずのない
着信音


見覚えのある

携帯番号…


♪愛奈♪


削除してなかった
君の番号


画面に君の名前が映る




「…もしもし…」


「…あっ!裕太ぁ?まだ家帰ってこんの〜?」


「…え?…愛奈…?」


「待ってるね!」


「…おいっ…」


プッ―

ツーツーツーツー…



僕は走った

愛奈が…

愛奈が…?


何故だなんて考える前に

とにかく走った


愛奈が…

愛奈が…


待ってる…


僕の家で…


待ってる…




エレベーターを
待つ時間が

長くて…


僕は階段で上った


4階まで走った


家の前に
黒い影………



…ッ!…



……愛奈だ……



「あっ!!おそ〜い」


「なんで…」


「ね〜早くあけて」


「…なんで…」


「は〜や…


「なんで愛奈が…
だって…愛奈は…愛奈は」


「………死んだ?」


「……そっ…そうだよ」


「…会いにきたんだよ?」


愛奈が…

愛奈が…


帰ってきた…


素直に嬉しかった…

抱き締めようと
手を伸ばしても……



手は愛奈の身体を


すり抜ける……


愛奈が

悲しそうな顔で見てる


もう触れる事は出来ない


愛奈は…


君は…


やっぱり

死んだんだ…


あれから2年も


たっている…


君は幽霊…




2年ぶりに会った愛奈はそのままだった…


服も

髪の毛も

君を包む空気さえも



全てが2年前のまま


2年もたって
僕は変わった


髪の色も

服の趣味も


すべて変わったのに


愛奈は変わってない



まだ君が…

愛しい……


2年ずっと…

愛してた……


「幽霊」


でもなんでもいい


ただ


君が傍に居る……



幸せだ…





「裕太…」


変わらない君の声


君がそっと

僕の頬に手を伸ばす


なんとなくだけど


君の温もり…


雰囲気だけだけど


君の手の感覚…



「ねえ…
明日さぁあの公園行こ」

「うん…行こう」


あの公園…



二人の思い出の

池のほとりの
小さな公園………



am 11:00


僕らは二人外に出た


周りからみるのは

僕一人…

僕たちには

僕ら二人…


二人にしか分からない
二人だけの声



周りから見れば

きっと僕は

変な奴


一人でペラペラ喋って

だけど

僕の声にはちゃんと
愛奈が返事してる


一人じゃない
二人の会話





八月二十三日



愛奈は僕の横に居る



八月二十四日


まだ愛奈は居る


僕の日記には
愛奈が居るかどうかだけ記すようになってた


八月二十七日

なんだか愛奈の様子
がおかしぃ


八月二十八日

愛奈の身体がすけてきてる気がする…


八月二十九日

愛奈の声が聞こえにくくなってる気がする


「なぁ…
愛奈はずっといるんだろ……?」


「…………」

愛奈は黙った

「愛奈…?


「もしまた帰ってしまうなら…ちゃんと
言ってくれよ……」


「うん…」




愛奈が
ベランダで

花を育て始めた


「…大きくなれよ」

「花にはね…
話しかけてあげると
そのまま育つんだよ」


愛奈は笑っていう



八月三十一日

夏が終わる

愛奈が見えなくなって
声も聞こえない



「…愛奈…」

「なんで…言ってくれなかったんだ…」


また僕を置いてく?

一人にするのかい…

何も云わず

離れてくのかい…


愛奈が消えて
一か月……


十月二日になった


ベランダの花が
咲いた…


「愛奈…」


ピンク色の柔らかい

可愛い花…

愛奈みたいに…

綺麗な花…


愛奈…

愛奈…

愛してる…


秋風と共にどこからか
季節外れの風鈴の音


「裕太…」


愛奈の声…


「愛奈っ…」


「ごめんね…
いわずに行っちゃって」

愛奈が僕の前に立ってる


「愛奈…」

「裕太…好きだよ」

ずっと

ずっと

愛してる


僕は愛奈を抱き締めた

愛奈を抱き締められた

愛奈の体温が在る…

愛奈の柔らかさが在る


愛してる…

愛してる…


愛奈が夕焼けと共に
かすれてく

裕太…

裕太…

空に愛奈の声が響く…


チャリ…

愛奈のピアスが足下に

落ちている…


これと花が

愛奈からの贈り物…


僕の彼女は幽霊…

可愛い可愛い幽霊…



作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品のキーワード

    設定されていません

この作家の他の作品

弾ける私情
さやみ/著

総文字数/3,185

恋愛(その他)7ページ

    表紙を見る
    痛い恋居たい愛
    さやみ/著

    総文字数/1,814

    恋愛(その他)2ページ

      表紙を見る
      お祭り
      さやみ/著

      総文字数/234

      ホラー・オカルト1ページ

        表紙を見る

        この作品を見ている人にオススメ

        読み込み中…

        この作品をシェア