事件の起こる数ヶ月前



私の名前は藤堂美華。



由緒正しきお嬢様、藤堂家の長女。



「美華様、今日もお綺麗ですね。」



「藤堂さん、今夜ディナーにでも行きませんか?」



金目当てで私に近寄ってくる男は腐るほどいる。



「ありがとう、今日はご遠慮させていただきます」



もう二十歳を過ぎた。



今はお母様の作ったブランド会社の社長として働いている。



「あの…」



会社のドアから一人の男が入ってきた。



「あら、どなた?」



「あの、社員募集とか…してませんか?」



「失礼ね、初対面なのだからまずは自己紹介をしなさい。」



「…うわさ通りのお嬢様だ」



「はい?」



「美しい華のような女性、だけどキツイ性格で」



「な…こんな無礼な人見たことないわ。さっさと帰って下さい。」



「ちょ、待って下さい。俺、南優介(ミナミユウスケ)っていいます!お願いします、ここで働かせてもらえませんか?」



「南優介…?聞いたことな名前ね。どこの財閥の息子さんかしら?名刺を見せてもらえます?」



「…ここは金持ちのお坊ちゃんやお嬢様しか働けないんですか?」



「そんな決まりはないわ。ただ面接をしても結局残るのは今まで厳しく育てられてきた財閥の子供ってことよ。」



「俺、どっかのおぼっちゃまじゃないです。父親も普通の親父です。けど…面接だけでもしてもらえませんか?」



「…いいわよ。」



私の下で働いているのは、藤堂家と仲がいい財閥の御曹司やお嬢様ばかりだ。



それは決して私が選んでいるわけではない。



選ぶのはお母様。



私が気に入っても、お母様に気に入られなきゃ意味ないのよ。