いつもの縁側、青葉しげる桜の木の影、時々の風、空は青。
わたしと春近さん、二人ならんで庭に向いて座って、
わたしは黙って膝で立って春近さんの首に抱き付いた。
大好きが溢れてくる。
「小春さん?」
春近さんの首に顔を埋めているから、春近さんの表情はわからないけれど、春近さんの声は、とても穏やかだった。
でも少しだけ、焦っているような、そんな気もする。
鼻を、春近さんの首に擦り付けると、春近さんはわたしの腰を抱き寄せて、熱い息を吐いた。
はぁっと、春近さんの吐息が、わたしの首筋にかかる。わたしは、少し肩をはね上げた。
夏だから、くっつくとあついの。
けれど、小さな頃みたいに、ずっとそばにいたい。
「小春さん、」
また、春近さんがわたしを呼ぶ声。
わたしは、春近さんの首に巻きつく手を少し緩めて、伏せがちの瞳から、睫毛をゆっくり持ち上げて、春近さんを見た。
「小春さん、本当に可愛いひとです」
春近さんは、わたしをしっかり見据えて、大きな黒目を揺らした。
「はる、ちか、さん」
言葉を、紡ぐ。
春近さんは、目を細めて、それから、腰を抱いていた腕を、背中に、手をわたしの頬に持っていった。
少し、熱っぽい視線が、わたしの、白のワンピースから覗く首元を、肩を、脚を、ゆっくり見て、それから、
「いけないことだ」
何かが弾けたように、春近さんは強く強くわたしの肩と腰に手を回しキツく抱き締めた。甘い声と一緒に。
小さなわたしの体が、胡座をかく春近さんの上に乗っかって、全部全部春近さんにくっつく。
春近さんの腕にまるで包まれてるみたい。とても落ち着いて安心できて、心地よい。
でも、大好きな春近さんは、なんだか困ってらっしゃった。
そしてわたしに、いけないことだと言った。
「春近、さん?」
春近さんは、わたしの耳の後ろで息を飲んで、小春、と言った。
「僕以外に、こんな風に触れないで。触れさせないで。」
君は、もう、幼い女の子じゃない。
綺麗な、女性に近付いてるよ、
だから、お願い。誰にも、触れさせちゃいけない。
約束して、
春近さんは、そう、言った。
体を、離して、わたしを見た春近さんは、無表情でいて、真剣だった。
「約束、です、か?」
「そう、約束」
「約束」
言うと、春近さんは、優しく笑って、
君は、僕の大切な、……妹だから。
そう、言ってくれた。
わたしは、とても嬉しくて、頬を緩めて再び春近さんに抱き付いた。
春近さんからのお願い、約束。
強い眼差しで言われたそれに、わたしは、夏のせいなんかだけじゃない熱を感じた。
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