「お前、名前は?」

噂の王子様が、ほんの2、30センチの距離にいて、勝ち気な瞳をこちらに向け、口の端を少しだけつり上げて笑っている。

どうやら名前を聞かれているようであるが。あまりの唐突な出来事に、あたしは固まっていた。

お取り巻きの女の子たちが、ざわめく。視線が、あたしに集中する。

なぜ。
なぜ噂の王子様とやらに、そんなことを聞かれているのだろう?

「名前は?」

もう一度繰り返す、低く柔らかい声。…声までイケメンとは、恐るべし。

「え、あたし、は、梶原…」

「梶原……?下の名前は?」

「め、芽衣子ですけど…」

あたしはおそるおそる答えた。しかし、それが何だというのですか。

意味が分からないまま、名を名乗ると、「れおさま」はため息を一つつくと。




「なーんだ、ちんちくりんじゃないか」

そう、言い放った。

「は、はい?」

この人に今ちんちくりんって言われたような気がしましたけど。聞き間違いでしょうかね?

「アキが可愛いって言ってたのに。期待して損した。ちんちくりんじゃん」

あー。聞き間違いじゃございませんね、はい。

いきなり近づいてきて、名を聞かれ、ちんちくりんと言われ。その上、期待はずれとな。なんなの、この人。

あたしは、顔をひきつらせたまま、さらに固まった。

「チビだし、ぺったんこだし」

「うっ、それは……悪ぅございましたね」

言葉に詰まりながら、言う。

…確かにお乳は小ぶりなほうですが?それがなんだってんだ。

「まぁ、いいか。俺、興味ねーし。せいぜい頑張れよ」

そう言い残して、うわさの王子様はさっそうと身を翻し、女の子の軍団を引き連れて去っていったのだった。