「え、なに?この騒ぎ」

「あんた、知らないの?ホントにうといわねー。玲央様よ、噂の」

「れ、れおさま?」

「この学園一有名なおぼっちゃまよ」

へー、「れおさま」ねぇ。今までこの学園に通ってて、全然知らなかった。もともと、そーゆー噂とか有名人みたいなモンにキョーミないし。

基本的に朝はみんなを見送ってからギリギリの登校だし、帰りは夕飯の買い物しなきゃいけなくてさっさと帰ってるし。誰がかっこいいとか、騒いでる暇ないのよね。正直。

「…なにこれ、全然見えないじゃん」

興味本位でちょいと王子様とやらの顔を拝んでやろうと、廊下を覗いたけども。

そこには、女ばかりの人だかり。口々にきゃあきゃあ言いながら、一人の男子生徒を囲んでいて、教室の窓からもたくさんの女の子が覗いてる。

「まー、すごい人気だしねー。超がつくくらいのイケメンだし、頭もいいし、金持ちだし」

「へー」

「へーって…リアクション薄っ」

そんなこと言われてもさ、ホントに興味ないんだもん。

心の中でそうつぶやきながら、人垣の間から、頭一つちらりと覗いた王子様の顔を眺める。

緩やかにウエーブがかった柔らかそうな髪。自信に満ちて輝く、深い黒い瞳。整った目鼻立ち。まるで、人形のようにきれいな顔。

「へー、美人だね」

「美人って表現もどうかと思うけど」

あたしの素直な感想にツッコむサチ。でも、美人と表現するにふさわしい、中世的できれいな顔立ちだった。


そのとき。

ぼーっと眺めていたあたしの視線と、「れおさま」の視線が、一瞬ぶつかった気がした。


目があった。そう思った瞬間。


……え。あれ?





こっちに、

近づいてきた?