「いってきまーす」

「はい、いってらっしゃい!」

家族みんなが無事に朝食を平らげ、家を出たのを見届け、ようやく一息ついた時だった。

「芽衣子、ちょっと話がある」

黙ってお茶をすすっていたお父ちゃんが口を開いた。あたしがひとり呼ばれるなんて、珍しい。なんか大事な話なのかな。

「何?話って」

「お前、奉公に出る気はねぇか?」

「ほ……奉公?」

奉公、って。どゆこと…?


※ほうこう【奉公】
その家に住み込んで,召し使われて勤めること。


「まぁ、つまりは家政婦として働きに出ねぇかってことだ」

ぽかんとしていたあたしに、お父ちゃんが要約して言った。

「家政婦?何でまたそんな話……家計厳しいの?」

たしかに、うちは裕福とはいえないけれど。
お父ちゃんは腕の良い職人だし、この不景気でも受注は絶えない。お父ちゃんが作る家具じゃないと嫌だというお得意様だっている。それに兄ちゃんも頑張って稼いでるし。

「まぁ、楽な暮らしとは言えねぇがな。そればかりじゃねぇんだ」

「どういうこと?」

「金の問題っちゅーより、義理立てってやつだな。得意先で、神宮寺さんとこあるだろ?」

「ああ、あのでっかいお屋敷ね」

ホント昔に、お父ちゃんの納品の手伝いで、一度行ったことがある。

「もう8年くらい前か。あそこの夫妻が、4人の子供残して亡くなってなぁ」

「はぁ」

「神宮寺さんとこは、先代からずっとうちの家具を気に入ってくれていてな、父ちゃんがまだ見習いのころから、お世話になってたんだ。それこそ、身の回りのことやら、金銭的援助やら、そういうとこまで世話になっててな。今まではカヨさんっていうお手伝いさんが、住み込みで家のことやってたんだが、だいぶ歳だからさ。引退するからって、代わりの人を探してるらしいんだが、なかなか見つからないんだと」

「それで、あたしに?」

「まぁ、そういうことだ」