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家事をこなしている間、一日中アホ兄弟どもに後ろをついてこられて、違う意味で心底疲れたあたしは、お風呂からあがると居間のソファーに腰掛けた。

まさか家政婦という仕事が、こんな辱めを受けるようなものだったなんて、想像もしてなかったわ。

いや、この家が…というか亜紀さんがおかしいだけだと思うけど。

深くため息をついてソファーの背もたれに寄りかかると、ため息の元凶が紅茶のポットを持ってひょっこり顔を出した。

「メーイコちゃん、お疲れさま!お茶入れたけど飲む?」

「あ、じゃあいただきます」

そう答えると亜紀さんはにっこり笑って、2人分のカップに紅茶を注ぐ。ふんわりといい香りが立ち上るカップを手渡すと、あたしの横に腰掛けた。

あたしはしばし亜紀さんを観察してみた。

肌理の整った肌にかかる、長めの前髪。伏せたまつげはとても長い。

白磁のカップに口を付けるその姿は、優雅という言葉そのもので、とてもじゃないけど駄々をこねてパンチラを覗きにくるような変態には見えない。

「ん?俺の顔に何かついてる?」

私の視線を感じた亜紀さんが、きょとんとした顔でこちらに訊ねてきた。

「いや、こうやって落ち着いてると、パンチラ狙ってた変態には見えないなーと思って」

「ふふん、惚れ直した?」

「いやいや、最初から惚れてませんから」

いつも通り調子のいいセリフを吐く亜紀さんを、容赦なく牽制する。

「メイコちゃんてばつれないなぁ。でもそういうとこが魅力で選んだんだけど」

「選んだ?」

「そうだよ、メイコちゃんじゃないと雇わない、って駄々こねたの、俺だもん」

初耳な事実に、あたしは少し驚いて亜紀さんを見た。

確かに、こんな小娘に住み込みで家政婦をさせるって、どういうこと?って疑問には思ってたけど、亜紀さんが駄々をこねたから、なんて全然知らなかった。

「どうしてあたしなんですか?というより、なんであたしのこと知ってたんですか?接点なんてなかったのに」

疑問に思ってそう訊ねると、亜紀さんは一瞬だけ、少し寂しそうな顔をした後、笑顔で言った。

「あれ、覚えてないんだ。悔しいなー。俺はすごく印象に残ってたのに…。俺たち、ほんとに小さい頃、会ったことあるんだよ?」

え?