「そんなことを聞いてるんじゃないの!」

地団駄を踏んで抗議する亜紀さん。

「じゃあなんなんですか、一体」

「どうしてメイド服を着ないのかって聞いてるの!」

「メ、メイド服…?」

「ふわふわのミニスカートに真っ白なエプロン!ニーハイソックス!お帰りなさいませ、ご主人様っ!でお出迎えされるのは男のロマン!」

「は、はぁ?」

「それが楽しみでメイコちゃんを雇ったのに…その上女の子連れ込むの禁止って言われたら、割に合わないじゃんか!」

そんなバカな。女人禁制になる代償に、あたしにメイド服を着ろ、と。それ、なんてイメージプレイ?

「い、嫌ですよ。なんかものすごく不吉です」

そんなひらひらした服なんか着てたら…なにされるか、わかったもんじゃないじゃないか。

「メイコちゃんがメイド服着ないなら、俺だって女連れ込むのやめないし」

なに、この駄々っ子。しかもものすごくタチ悪っ。

「芽衣子ちゃんのクローゼットにもう用意してあるのに。なんで着ないの?」

え、ちょっとまて。そんなもんいつ用意したの?ってか、部屋入ったの?昨日からはちゃんと鍵かけてるのに。いつ?

「だって、いちいち着替えるのめんどくさいし…」

制服の上からがばっと着れるんだし。割烹着って、画期的なジャパニーズエプロンだと思うけど。

「そんな色気のない服、俺は嫌なんだ!」

「まぁ、色気がないってのは同感だな。まぁ、こいつは何着たって色気なんかねぇけど」

熱くなっている亜紀さんのおかずを盗み食いしながら、玲央さまが横から口を挟む。…一言余計なんだよ、このアホ王子。

「俺は、断固としてメイコちゃんのメイド姿を要求する!」

亜紀さんが、高らかに宣言する。

「正直、どーでもいいんだけど。どうすんの?亜紀兄って一度言い出すときかないじゃん」

一人冷静にご飯を口に運びながら、ため息まじりに悠宇くんが言う。

「いいじゃねーか。服ぐらいへるもんじゃねーだろ?」

「ん、どっちでも」

う、なにこれ。満場一致のこの空気…しかも葉流さん、そこはどっちでもいいんだ…

「……わ、わかりましたよ。着ます、着ますよ」

こうしてあたしは、明日からメイド服を着用することをしぶしぶ了承したのだった。