「ふがっ、ふがっ」

「あ、ごめんね。苦しかった?」

息ができていないあたしにようやく気づき、ゆっくり力を緩める先輩。無呼吸状態から解放されたあたしは、おおきく息を吸った。

しかし、力を緩めて顔は解放してくれたものの、あたしの体自体を離す気はさらさらないようだ。最大の力で引きはがそうとするが、1ミリも離れる気配すらない。

至近距離にある、きれいな顔が、満足そうに微笑む。

「な、なんですか、いきなり」

「ああ、ごめんね。君に会えたことが、嬉しくて、つい」

「はぁ」

どうでもいいから離してくれませんか。後ろの彼女たちの視線が、すっごいイタいんですけど。

「かわいいなぁ、メイコちゃん…キス、してもいい?」

「…は?」

いやいやいやいやいや!
意味わかんないから!

潤んだ瞳でこちらを見つめ、唇を近づけようとする先輩。女の子の鋭い悲鳴。

…おい、まて!!!顔が近い!こいつ、本気か…!

「ちょ……それだけは…ご勘弁を…!!!!」

「え、なんで?」

「み、みんな…見てるし…」

ってゆーか、知らない人にいきなりキスされたくないし!

「恥ずかしがりやだなー。まぁ、焦らなくてもこれから四六時中ずっと一緒だしね?」

「は、はぁ?」

いま、さらっととんでもないこと言わなかった?それは、どーいう……

発言の意図を訊ねようとするが、そんな隙は与えてくれず。

「じゃあ、またあとでね、メイコちゃん」

そういって、おでこにちゅっと軽いキスを落とすと、セクハラ魔人(たった今命名)は、手を振りながらにこやかに去っていったのだった。

戸惑いと、女子のイタい視線だけを残して。