「逆に聞きますけど、へなちょこ様は自分の“ボス”の正体も知らないんですか?」


「失礼なコトを言うな。“声”は知っている」


私が知っている“ボス”の情報は声。

それだけだ。

人気俳優、結城龍之介のように魅力的な声であるコトは間違いないが、その顔が人気俳優、結城龍之介のように魅力的であるかどうか、私は知らない。

“ボス”という呼び名と、声。

私と“ボス”を結び付けるモノはそれだけだ。


「声だけしか知らない人を信用しない方がいいと思いますよ。声を変えることなんて、簡単にできますから」


「なるほど、一理あるな」


「そうですよ。ほら……江戸○コナン君だって、蝶ネクタイ型の変声機を使ってますし」


「突然現実味を失ったのだが」


それにしてもこの女、なかなかいい声をしている。

マスクをしているとはいえ、その魅力的な声を隠し切れてはいない。

女性の平均からすると、声は高い。

ややこもり気味の、高い声だ。

どことなく、呂律の回っていない印象を受ける。

この声で“ゾンビさん、起きてよぉ! もう朝だよぉ! 遅刻しても知らないんだからねっ!”などと言われたら、瞬時に飛び起きるコトだろう。